Works
構想は描くだけじゃなく、実現させるもの。
昨年度から2年がかりで中心市街地の構想づくりに取り組んでいる五戸町では、まだ構想を描いている最中にもかかわらず、その議論や準備の過程から人の繋がりや小さな活動が生まれ、すでに実現に向けてまちが動き出しています。
リノベリングでは、リノベーションまちづくりにこれから取り組みたい、実践事例をより深く知りたいという方のために、変化が起きる都市の事例を知るためのセミナーを定期開催していますが、今回は青森県五戸町にスポットを当てました。「”動く民間”と共につくる、小さなまちの”超実践思考”な構想づくり」というテーマで、青森県五戸町の取り組みについて担当者の新堀裕貴さん(都市計画課)にお話しいただいた内容のレポートをお届けします。
「立地適切化計画」から始まった問い直し
五戸町は、青森県南部に位置する人口約1.5万人の町です。新堀さんが都市計画課に配属されたのは5年前。最初に配属されて担当したのは立地適正化計画の策定でしたが、これまで都市計画に関わった経験がなく、完全な手探り状態からのスタートでした。当初、立地適正化計画の策定はハード整備を目的としたものでしたが、新堀さんは各所のセミナーや先進地の視察に参加する中で、ハード整備によるまちづくりではなく、まちの将来像を描き、それに共感する民間の仲間と一緒に動かす構想が必要だと強く実感したといいます。その思いを実現する方法を探す中で、リノベリングに声をかけていただきました。
「ないものねだり」ではなく、「あるものみっけ」
こうして構想づくりに着手することになった新堀さんは、洞口 文人 さん(株式会社L・P・D代表取締役、NPO法人自治経営 理事長)の協力も仰ぎながら、リノベリングとともに、構想づくりの出発点としてまず自分たちのまちを丁寧に調べるところからスタートしました。昼夜間人口比率や産業構造、財政構成や商業集積の偏りなど、これまで向き合いきれていなかったまちの現状や課題に対峙し、潜在的資源をあらためて見直していきました。そのなかで大事にしたのは、ないもの探しから入らないという姿勢です。「うちには何もない」と嘆くのではなく、「いまある資源」の中から五戸にしかない尖った要素を見つけて深掘りし、それらを活かすための戦略づくりに力を注ぎました。
構想を”共につくる”仲間を探しにいく
構想を動かす上で何より大事にしたのは、地域で活動する民間プレイヤーとの連携です。五戸町では、庁内の協力も得ながらまず50人以上の民間プレイヤーをリストアップし、そのうち20人以上と実際に会って対話を重ねました。新堀さんは、肩書ではなく人柄や興味関心に耳を傾け、気軽に相談できやすい関係になることを意識したといいます。もともと民間プレーヤーと積極的に交流し、関係構築していた新堀さんでしたが、まちに出て交流を重ねることによって、改めてまちに出ることの大切さと、まだ知らない民間プレーヤーがまちにいるということに気づいていきました。予定していたワークショップの前に何度も足を運び、関係を築いていったことで、公民連携に共に挑む“仲間”が見つかっていきます。
そうしたプロセスを通じて実施したワークショップでは、参加者同士が自然に言葉を交わし、つながりが生まれるような場の雰囲気に力を注ぎました。例えば、地元に新設されたクリニックのキッズスペースを会場にして膝を突き合わせて議論できる場をつくったり、キャンプギアを販売する地元企業の協力を得て、商店街の駐車場スペースを活用し、焚き火を囲んだ交流会を開いたりしました。そのプロセス自体が民間プレーヤーの力を活かし、知る機会になるとともに、会議室では実現できない交流の場を設けることができました。
参加者から話を聞いたところ、今までまちなかで他の民間プレーヤーとつながる機会はあまりなかったようです。前向きに動いている人たちと話す中で触発され、この場から様々なプロジェクトも立ち上がっていくことになりました。

民間ワークショップが生み出した化学反応
こうしたプロセスを経て、参加者同士が自分のやりたいことを共有しあい、互いのやりたいことやまちへの思いがつながっていったことで、構想の全体像が完成する前から、すでにまちの中ではさまざまな民間プロジェクトの芽が生まれはじめました。中心市街地の遊休スペースを活用する若手後継者グループの台頭、ゲストハウス開業への挑戦、小規模多機能施設の新設、遊休施設を活用した新事業の検討など、多様なプロジェクトが動き出しています。
庁内での共感と理解を育てる
同時に、行政内部でも変化が生まれました。庁内では、まず、都市経営分析の手法を習得することから始まり、上記プロセスで担当者の新堀さんが関係構築した民間プレーヤーたちと庁内の有志メンバーが交わる機会も設けて、行政職員がそれぞれの部署の立場から、彼らをどのようにサポートできるかを考える場をひらきました。庁内での理解促進は容易ではなく、初めは参加職員の熱量にも差がありましたが、まちで意志を持って活動する民間事業者の話を直接聞くことで、共感する職員も生まれ、こういった職員が今年度のタスクフォース(公民連携での会議体)に参画することに繋がっていくことになります。

2年目の展望、構想の実働にむけて
構想づくりにおいて重要なのは、いつもと同じメンバーと、合意形成を得やすい内容に収めることではなく、そのまちならではの課題や可能性と向き合い、まさに動く人たちと共に、動くための構想をつくることです。地域資源を掘り起こし、仲間を見つけ、行動の中で構想を育てていく。そうすることで、構想そのものが生きたものになっていきます。構想完成を待たずして、様々なアクションが起き始めている五戸町のそのプロセス。2年目となる今年度は、青森県との連携も深めながら、構想の具体化と庁内での実働体制づくりに挑みます。ぜひ今後の五戸町の動きにご注目ください!