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これからのまちづくりに求めれる価値とは?「まちづくりの価値を“見える化”する―新たな評価軸と発信のかたち―」を開催しました。

日本の都市は長らく「病院のベッド数」「大型商業施設の面積」「新築住宅の着工数」といった量的な指標で評価されてきました。しかし、人口減少や少子高齢化が進む現代において、それらの数値が必ずしも「住みやすさ」や「豊かさ」を示す指標ではないことはだれもが感じていることだと思います。
国土交通省が2025年に発表した「成熟社会の共感都市再生ビジョン」においても、人口増加局面で量的拡大を追求する成長社会から、精神的な豊かさや生活の質、価値の向上に重きを置く成熟社会に移行し、都市の個性と質や価値へ着目する方向性を示しています。(参考:https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001889398.pdf)
そんな時代のなかで、これからのまちづくりは何を指針としていくのか?「まちづくりの価値を“見える化”する―新たな評価軸と発信のかたち―」と題して、まちの魅力を測る新たなモノサシを提案するLIFULL HOME’S総研所長の島原 万丈さん、リノベーションまちづくりに10年取り組む草加市での評価指標の実践に伴走いただいた草加市の千田 尚史さんと日本経済研究所の小林 純子さん、先進的な発信のありかたを実践する霧島市の宮之原 優聖さんと岡崎市の中川 健太さんをお呼びし、みなさんとともにこれからのまちづくりに必要な評価軸と発信のかたちを探りました。
LIFULL HOME’S総研 所長 島原 万丈 氏レクチャー「センシュアス・シティ まちの魅力を測るモノサシの提案」
10年前にLIFULL HOME’S総研が発表した「Sensuous City[官能都市]―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」は、均一化していく都市への危機感から、五感や体験といった実感を重要視して、「関係性(不特定多数の他者との関係性の中にいること)」と「身体性(身体で経験し五感を通して都市を知覚する)」を軸に新たな評価手法を提示しました。

島原 万丈 氏
株式会社LIFULL LIFULL HOME’S総研 所長
調査では、都市でのアクティビティを32項目にし、「お寺や神社にお参りをした」「カフェやバーで1人時間を楽しんだ」「デートをした」「街の風景をゆっくり眺めた」といった 「私はこの街で〇〇した/していない」 という動詞での質問をおこなっています。これによって、私が主語となる主観的な体験でありながら、それを積み重ねることで同時に客観的な評価を行うことができるのです。
続くセッションでテーマとなった草加市で行われた新たな評価指標の取り組みは、このセンシュアスシティの手法を応用して行われました。
まちづくりの価値を”見える化”する ー 草加市における新たな評価指標の結果と分析
2024年度、リノベリングは10年以上にわたってリノベーションまちづくりを推進する埼玉県草加市において、草加市と日本経済研究所の協力のもと独自の評価指標を用いてまちづくりの成果についての調査を行いました。

千田 尚史 氏
草加市役所 自治文化部 産業振興課 リノベーションまちづくり推進係

土田 昌平
(株)リノベリング チーフディレクター
その結果として、リノベーションまちづくりのエリアをお気に入りとしている人は、リノベーションまちづくりエリア以外をお気に入りとした人と比べ、満足・愛着・地域への帰属を強く感じているという結果が出ました。また、リノベーションスクールを起点に開業したへのアンケートでは、経済波及効果も算出されています。そして、「リノベーションまちづくりを知っている」人の過半数がまちの賑わい、市内支出機会、休日のお出かけ、家族以外との会話が増えたと回答しており、認知を高めていくことの重要性も可視化されました。

小林 純子 氏
株式会社日本経済研究所 執行役員 産業戦略本部 副本部長 兼 産業調査企画部長

水上 幸子
(株)リノベリング取締役 / NPO法人自治経営 副理事長 / (一社)HEAD研究会理事 /神戸芸術工科大学 非常勤
こういった結果から、続くセッションでは、認知や情報発信のあり方について先進的な取り組みをおこなっている霧島市と岡崎市の取り組みついて共有していただきました。
まちに起きている変化を”見える化”する ー 霧島市・岡崎市にみる効果的な発信のかたち
鹿児島県霧島市では、一連の取り組みを「LIVE KIRISHIMA」と称して、4年間で延べ100回程度のプログラムを実施し、参加者人数は2540人、59のプロジェクトが生まれました。取り組みのスタート時に活動の象徴となるシンボルマークを作成し、例えばそのロゴが入ったバッジをを身につけていることで「LIVE KIRISHIMA」の価値観への共感を視覚的に示すことができ、仲間意識の醸成や動きの可視化につながっています。

宮之原 優聖 氏
霧島市役所 建設部 都市計画課/一般社団法人Re Awesome City 理事
愛知県岡崎市は「QURUWA戦略」を掲げまちづくりを12年間推進するなかで、人口数が約7〜8%増加し、公共空間における民間活動が年間で約600件行われるようになったり、6年連続で年間平均18店舗の新規出店、路線価の向上などさまざまな変化を生み出しています。ブランディングとPRにも力を入れ、QURUWA ウェブは、クリエイターをターゲットに設計され、民間、自治会、市民活動、県の職員など多様な人々の取り組みを紹介し、わたしもなにかやってみようかなと思えるような情報発信をおこなっています。

中川 健太 氏
岡崎市まちづくり推進課QURUWA戦略係 係長
また、両市とも、公共空間を人々の活動やまちの変化が可視化される舞台として活用しているのも特徴です。
トークセッション「これからのまちづくりに必要な評価軸と発信のかたち」

評価軸と発信についての新たなアイデアも行き交いながら、評価軸を定めるためにはそのまちをよく知っていること、そして自分自身がメディアとなって情報を発信することの重要性が語られました。今後も時代の変化とともに人がまちや暮らしに求める価値観は変化していきます。まちづくりの実践において何を価値とするのか?それをどのように測り、どのように伝えていくか?これからもみなさんと共に考え、さまざまな都市での実践と調査を重ねてまちづくりの価値を可視化していきたいと思います。
本取り組みの動向が気になる方は、ぜひお気軽にリノベリングへお問い合わせください。